古くより神仙境として知られた龍門は、文人たちの憧れの地でもありました。
葛野王
遊龍門山(龍門山に遊ぶ)
命駕遊山水(駕を命じて山水に遊び)
長忘冠冕情(長く冠冕の情を忘る)
安得王喬道(いづくんぞ、王喬が道を得て)
控鶴入蓬瀛(鶴を控きて蓬瀛に入らむ)
【現代語訳】
車を用意させて山水に遊び、官務の煩を忘れる。王喬のような仙人の道を体得し、鶴に乗って仙山に入りたいものだ
靏井忠義編「龍門大宮」より
伊勢
本願寺本三六集伊勢集
「雪の中より滝は落つるように見ゆ」
菅原道真
遊龍門寺
随分香華意未曽
緑蘿松下白眉僧
人如鳥路穿雲出
地是龍門赴水登
橋老往還誰鶴駕
閣寒生滅幾風燈
樵翁莫笑帰家客
王事営々罷不能
【現代語訳】
応文の香花をたむけたいと思いながら果たすことができなかった
緑のつる草の垂れる松のかたわら、白い眉毛の僧
人はあたかも鳥路を行くがごとく、雲をかきわけてあらわれる
ここは龍門たぎち流れる水を追って登って行く
古びた橋を渡ると仙人の乗り物である鶴の羽のようだ
きこりのおじいさんよ笑わないでおくれ家路急ぐ私を
政務に多忙でここでゆっくり休んではおれないのだ
菅生寺説明板より
源経信
いにしへの人ならなくに滝の糸を雲の衣をきても見るかな
今昔物語
巻11第24話 久米仙人始造久米寺語 第廿四
今昔、大和国吉野の郡龍門寺と云ふ寺有り。寺に二人の人籠り居て、仙の法を行ひけり。其の仙人の名をば一人をあづみと云ふ。一人をば久米と云ふ。然るに、あづみは前に行ひ得て、既に仙に成て、飛て空に昇にけり。
後に、久米も既に仙に成て、更に昇て飛て渡る間、吉野河の辺に、若き女、衣を洗て立てり。衣を洗ふとて、女の〓脛1)まで衣を掻上たるに、〓2)の白かりけるを見て、久米、心穢れて、其の女の前に落ぬ。
其の後、其の女を妻として有り。其の仙の行ひたる形ち、今、龍門寺に其の形を扉に移し、北野の御文に作て出し給へり。其れ消えずして于今有り。
1)2)〓はにくづきに巾
※龍門寺の扉には菅原道真によって久米仙人が術を行う様子が描かれていたと伝えている
松尾芭蕉
花の陰謡に似たる旅寝哉
大和の国を行脚しけるに、ある農夫の家に宿りて一夜を明かすほどに、あるじ情け深くやさしくもてなし侍れば
花の陰謡に似たる旅寝哉
竜門の滝
龍門の花や上戸の土産(つと)にせん
酒飲みに語らんかかる滝の花
本居宣長
紀見のめぐみ
十二日龍門の瀧を立よりて見る
昔よりよよに流れて瀧の音も その名もたかき仙人のあと
よりて見しいにしへ人の言の葉に かけて名高き瀧の白いと
此瀧をけふきて見れはきて見けむ いにしへ人のおもほゆるかも
池田克己
「村落」第7番
《真昼間大阪で自分は見た
靴磨少年のハローハローを
中華料理屋のペンキの原色を
地下鉄構内の菰かむりの髪の毛を
屋台の上の賭博を
悪臭と喧騒の累々の皮膚を》
疲れた駅からの五十丁
月ノ木橋の上でようやく満月
役場前の急坂で真正面の満月
火の見櫓も
一本杉も
まぶしくかすむ雪の満月
ポケットにラムネ玉 原はもう寝たか
ラムネ玉にいくもいくつもの月
鞄に千代紙 道はもう寝たか
千代紙に雪の花火
今夜
青年団の芝居のどよもす国民学校
窓窓明るい
国民学校
桶屋の留市は国定忠治 鍛冶屋の
太蔵は悪代官 疎開のリエは
売られる娘 寺垣内の三郎は日
光の円蔵で
昨日団長が話していったプログラム
山田に雪 芝居の幕は揚がったか
ああ
もう
竜門嶽
頂上の満月
