豚の邊(ほとり)
遙かな
前方
そのピカピカ光る山脈の起伏も
湧きあがる乱雲の彩りも
日と共に肥りゆく首を上げては も早望み得べくもなかった
それは昔
芋の子のように乳房にぶら下がって仰ぎ見た景色だが 今はもう 誰彼の頭にもすれすれに薄れてしまった
《突如!首ッ玉にからみついて投縄に顛倒した仲間が 潰れた鼻からヒリヒリ絶叫をあげて血の滲んだあの眼で この世の最後に見たものは ひょっとするとこの薄れがちな記憶の光彩であったかも知れない いやそれだけは信じたい》
日とともに
この肉体はこの意志におかまいなく 顎を前につんのめらせ 残飯の饐えた臭いに近づけしめた
自由な手足があれば照る陽に癒えて
せめて淡紅の皮膚を輝かせたいものを
汚れは募るばかりだ
こんな汚れた皮膚の下で酸酵しているものに自分自身 なんと慚愧に耐えぬものがあることか
しかし
見ろ
むこうに
われらと共に汚れ果てて
なおもその肉体におかまいなく
威張り散らしている嫌な野郎が一人いるのだ
片手に棒を下げて
平気の平左で