激烈と、冷酷と、虚無と、感傷を抱いて
一つの星が
また空の彼方へと落ちた
君はあのとき死の断崖に立って、僕に言ったね
-人類は何て馬鹿なことばかりしているんだ。
あゝ寂しい。人間は寂しいね。
全く寂しいね。
死ぬことを少しも考えず
痛むことも意識しようとせず
ただ生きよう、生きようと燃え立った
君の四十年
僕との三十年
荒れ狂う世紀の中の互いの泥濘の道
今僕は君の骨を抱いて立っている
池田克己!
わが愛する少年、教え子
わが青春無頼の友
詩と眞実の同行者
君はこの世紀の中を突っ切り
つまづき、倒れ、立ち上り、
いのちの限りを生きて、
生きた!
僕は君の骨を抱いてここに立っている
生とは何か
死とは何か
愛とは何か
足の遅い僕は
君の駆け去った道を
のろのろと歩いている
春早く暗い空の彼方から
とうとうとひびいてくるのは
またも荒れ出した鎌倉の海のとどろきだ
出典:植村諦著「鎮魂歌」