村落より:第七番

《真昼間 大阪で自分は見た
靴磨少年のハローハローを
中華料理屋のペンキの原色を
地下鉄構内の菰かむりの髪を
ガチャガチャの屋台の賭博を
悪臭と喧騒の皮膚の累々を》

 疲れた駅からの五十丁
 月ノ木橋の上でようやく満月
 役場前の急坂で真正面の満月
 火の見櫓も
 一本杉も
 まぶしくかすむ雪の満月

   ポケットにラムネ玉 原はもう寝たか
   ラムネ玉にいくもいくつもの月
   鞄に千代紙 道はもう寝たか
   千代紙に雪の花火

 今夜
 青年団の芝居のどよもす国民学校

 銀一色の布田野ッ原を背景に
 窓窓明るい
 国民学校

   桶屋の留市は国定忠治 鍛冶屋の
   太蔵は悪代官 疎開のリエは
   売られる娘 寺垣内の三郎は日
   光の円蔵で
   昨日団長が話していったプログラム

山田に雪 
芝居の幕は揚がったか

ああ
もう
竜門嶽
頂上の満月

2025年01月17日|池田克己:村落より